前進座の座付作者・演出家による評論とエッセイ

津上 忠
作家談義


2010年12月刊
四六判並製320頁
定価 2000円+税
ISBN978-4-87714-412-8

●目次
●書評



1952年以来、前進座の座付作者・演出家、そして座友としてかずかずの舞台創造にかかわった著者が交流した、現代日本の文学・演劇界を代表する作家たちをめぐる回想、及び戦時下・敗戦直後の激動する時代の自伝的証言・エッセイ等を収録。


〈著者略歴〉
津上 忠(つがみ・ただし)
1924年、東京生まれ。劇作、演出家。
演劇協会監事・民主主義文学会幹事・文芸家協会会員・劇作家協会会員・前進座座友。
前進座を主に、東宝、松竹ほか劇団制作の上演作品多数。テレビ、ラジオドラマ作品も手がける。

主要著作
『乞食の歌』未來社
『津上忠歴史劇集』未來社
『早春の腑――小林多喜二』未來社
『演劇と文学の間』光和堂
『歴史小説と歴史劇』新日本出版社
『歴史紀行』新日本出版社
『現代劇選集』青磁社
『炎城秘録』影書房
『幕の内外で』新日本出版社
『のべつ幕なし』新日本出版社
『不戦病状録抄・続のべつ幕なし』本の泉社 ほか

(本書刊行時点)






◆『作家談義』目次◆

 Ⅰ
作家談義
 はじめに
 室生犀星
 谷崎潤一郎
 大佛次郎
 長田秀雄
 久板栄二郎
 高見 順
 久保栄と村山知義
 井上 靖
 松本清張
 水上 勉
 有吉佐和子
 八木隆一郎・小野田勇・大垣肇・野口達二・榎本滋民・小幡欣治・村井志摩子
 窪田 精
 井上ひさし

 Ⅱ
戦時下の文芸誌を再読して
『道草』を中心に
森鷗外と「大逆事件」
歴史劇をなぜ書くか
『五重塔』『阿部一族』取材コボレ話
山川幸世先生を憶う
新発見・山中貞雄あて書簡
戦時中に見た芝居の記憶
“一犬影に吠ゆれば……”の状況のこわさ―異常な天皇報道で思うこと
北京・湯ヶ島、二つの思い出
山本薩夫生誕100年・わたしの思い出すこと
追悼・廣澤榮―失いし長年の友を偲ぶ
小林多喜二をめぐって
劇作家・大澤幹夫さんへの回想
気がついたら反対できなくなる戦争への道
尾崎秀樹さんを悼む
マルクス主義への関心と劇作への道


 Ⅲ
狭められた楽しみ
三ヶ日
小学校時代の大森
同窓会の紅一点
横浜の地とわたし
仕事つきの「旅」―海外見聞印象記の一つ
一人旅
思い直すこと
わが味日記

 平戸の「あご」と「雲丹(うに)」
 鰯の味さまざま
 釣りと魚料理
 釣りと魚料理―ウナギ
 釣りと魚料理―懐かしい味
 魚料理と包丁
 山菜料理と山間の宿
 続・山菜料理と山間の宿
 戦時中の食糧飢饉と食味
 “ぜいたく”な料理あれこれ
 外国の料理はその土地で
 外国の料理あれこれ

  あとがき
  初出一覧








書 評



● 『赤旗』 2011年1月23日

  
ひとりの歴史劇作家の全体像
                                   
    評者=菅井幸雄(演劇評論家)


 『民主文学』の一昨年4月号から11月号にかけて連載された著者の「作家談義」は、谷崎潤一郎、大仏次郎、久坂栄二郎、久保栄、村山知義など、多彩な活動をしてきた作家について、著者が論じた文章として注目されてきた。それだけに、これらの文章を主たる内容とする本書が刊行されたのは、うれしい。しかも新たに小幡欣治論と村井志摩子論が追加され、窪田精論や井上ひさし論も補われている。

 本書は全体として3部構成になっており、第Ⅰ部の『作家談義』につづいて、第Ⅱ部では著者が魅力を感じている映画などのジャンルの特徴にふれた17の文章が収められており、第Ⅲ部では、この著者の人生の歩みをうかがわせる文章が収められている。

 たとえば著者の初期の代表作といわれる「五重塔」「阿部一族」に関する文章などは、歴史劇についての著者の思想と、このドラマを上演した前進座への熱い思いが、あざやかにうかがわれる。

 塔を表面から見ただけではわからない構造上の特質が、垂木の組み方にあること、日光・東照宮の五重塔の内部構造も、真柱懸垂式の工夫であることを知った著者が、その事実を、登場人物の十兵衛と源太との対話に活かして、ドラマのクライマックスを設定している。舞台を見ていて、もっとも感動した部分が、実は著者の発見にあったことを、いまさらのように知るのだ。

 最後に収められているのは「わが味日記」である。著者の亡父の郷里である長崎県平戸島でとれる飛魚の料理の仕方が書かれており、魚料理を歴史的に考えたことが、この側面からもみてとれる。津上忠というひとりの歴史劇作家談義の全体像がうかがえるのである。