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これからの法規制議論のために

LAZAK(在日コリアン弁護士協会)板垣竜太、木村草太 ほか著
ヘイトスピーチはどこまで規制できるか


2016年8月刊
四六判並製204頁
定価 1700円+税
ISBN978-4-87714-464-7 C0036


●目次
●書評
●関連書



そこにあるヘイトスピーチ被害に対して、現行法はどこまで対処できるのか?
「表現の自由」を前に立ちすくむわけにはいかない!
歴史家・憲法学者・弁護士たちによる熱く精緻な議論。
2015年12月5日に開催されたシンポジウムの記録。


社会的マイノリティへの差別・排除を扇動するヘイトスピーチ・デモが日本各地で頻発するなか、これを規制すべきとの声が高まったが、弁護士や憲法学者といった法律関係者の間では「言論・表現の自由」を理由とした法規制慎重論が根強く、議論は停滞し、被害者はとりのこされていた。

被害当事者でもあり法律家でもある在日コリアン弁護士協会(LAZAK)のメンバーらは、この状況を一歩でも前に進めようと、2015年12月5日にシンポジウムを開催。本書はその記録集。

ヘイトスピーチは長年にわたり日本国内で醸成されてきたレイシズム(人種差別)の結果であることを、朝鮮近現代社会史学の板垣竜太氏が基調報告、パネルディスカッションでは憲法学の木村草太氏を迎え、被害の実態をもとに、現行法ではどこまでどういった規制が可能か、どこから新法が必要となるのか、そもそも憲法上ヘイトスピーチへの規制は許されるのか、何を「法益」とするのか、といった具体的な議論が交わされた。

本書はその記録に加え、京都朝鮮学校襲撃事件の判決分析や、アメリカのヘイトクライム規制に関する報告、「ヘイトスピーチ解消法」の成立を受けてのLAZAK会員による「座談会」等を収録した。

2016年5月に罰則のない理念法である「ヘイトスピーチ解消法」が成立したが、具体的な法規制への取り組みは続く。本書に収録した議論は、今後の指針ともなりうるだろう。




〈著者〉

板垣竜太
 いたがき りゅうた
1972年生まれ。同志社大学社会学部教授。朝鮮近現代社会史・植民地主義研究。
著書:『朝鮮近代の歴史民族誌』(明石書店)、『Q&A朝鮮人「慰安婦」と植民地支配責任』(共編著、御茶の水書房)、『東アジアの記憶の場』(共編著、河出書房新社)、『日韓 新たな始まりのための20章』(共編著、岩波書店)

木村草太 きむら そうた
1980年生まれ。首都大学東京法学系教授。憲法学。
著書:『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』(晶文社)、『憲法の創造力』(NHK出版新書)、『キヨミズ准教授の法学入門』(星海社新書)

【在日コリアン弁護士協会(LAZAK)】
2001年5月、東京にて在日コリアン法律家協会として設立。翌02年6月に在日コリアン弁護士協会へ組織改編。在日コリアンヘの差別撤廃、その権利擁護、民族性の回復(民族教育の保障等)及び政治的意思決定過程に参画する権利(参政権・公務就任権)の確保などを活動の目的としている。
刊行書籍:『裁判の中の在日コリアン 中高生の戦後史理解のために』(現代人文社)、『韓国憲法裁判所 社会を変えた違憲判決・憲法不合致判決 重要判例44』(日本加除出版)、『第2版 Q&A 新・韓国家族法』(日本加除出版)

金 昌浩 キム チャンホ
弁護士。第二東京弁護士会・2008年登録。NY州弁護士。
著書:『原子力損害賠償の実務』(共著、民事法研究会、2011年)

金 哲敏 キム チョルミン
弁護士。東京弁護士会・2004年登録。
著書:『Q&A新・韓国家族法(共著、日本加除出版、2015年)

金 星姫 きん そんひ
弁護士。大阪弁護士会・2014年登録。

金 竜介 きん りゅうすけ
弁護士。東京弁護士会・1994年登録。
著書:『外国人刑事弁護マニュアル』(共著、現代人文社、2014年)

具 良鈺 ク リャンオク
弁護士。大阪弁護士会・2009年登録。
著書:『知っておきたい!養育費算定のこと』(共著、かもがわ出版、2013年)

宋 惠燕 ソン ヘヨン
弁護士。神奈川県弁護士会・2006年登録。
著書:『いまこそ知りたい! みんなでまなぶ日本国憲法(共著、ポプラ社、2016年)

韓 雅之 はん まさゆき
弁護士。大阪弁護士会・2002年登録。
著書:『Q&A新・韓国家族法(共著、日本加除出版、2015年)。

李 春熙 リ チュニ
弁護士・東京第二弁護士会・2005年登録。
著書:『Q&A新・韓国家族法(共著、日本加除出版、2015年)。







◆『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』 目次◆

まえがき

[基調報告]
 
「日本のレイシズムとヘイトスピーチ」――板垣竜太

[報告]
報告1 「ヘイトスピーチとは――その実態と被害について(金星姫)
報告2 「人種差別の違法性を認定
――京都朝鮮学校襲撃事件判決(具良鈺)
報告3 「アメリカにおけるヘイトクライム規制」
(金昌浩)

[パネルディスカッション]
 「ヘイトスピーチはどこまで規制できるか」
         ――板垣竜太、木村草太、金哲敏、金竜介、李春熙

[座談会]
 「シンポジウムを終えて」
          ――金哲敏、金星姫、金竜介、宋恵燕、韓雅之、李春熙

 







書 評




●「図書新聞」 2016年11月12日 より

http://www1.e-hon.ne.jp/content/toshoshimbun_3278_1-1.html


差別社会への怒り
今とは違う社会を構築する力
――共闘の呼びかけ

評者:中村一成


 ■抵抗者を弾圧するため、大阪府警から沖縄に派遣されていた機動隊員が、高江の人びとを「土人」「シナ人」と罵った。歴史的な沖縄差別の噴出に他ならない言動は、若い一警察官の差別性にとどめてはならぬ問題を孕んでいるが、大阪府の松井一郎・知事は批判や被害者への謝罪どころか「一生懸命命令に従い職務を遂行していた」とツイッターで隊員を擁護、「ご苦労様」とまで投稿した。こんな人物を辞任にすら追い込めないのが、人種差別撤廃条約加入から二一年、「ヘイトスピーチ解消法」成立から五か月を経たこの国の現実だ。

 そんな折、人種差別と対峙するための二冊が刊行された。『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』と『Q&Aヘイトスピーチ解消法』である。

 前者の『ヘイトスピーチはどこまで規制できるか』は、在野の法律家であると同時にヘイトスピーチの攻撃対象でもある在日韓国人、在日朝鮮人の弁護士たちの団体「在日コリアン弁護士協会(LAZAK)」が昨年一二月、東京で開いた討論集会の内容に「ヘイトスピーチ解消法」成立を受けた五月の座談会を加えたものだ。集会が持たれたのは、野党が提出した「人種差別撤廃施策推進法案」が継続審議となり、公明党議員が雑誌上で、ヘイトスピーチに特化した理念法を検討すべきと主張し、法務省が実態調査に踏み切った時期である。

 本書の意義は、従来からの論点を整理したことにある。法律家による書籍だが、極めて平易でコンパクト、「今更聞けないヘイトスピーチQ&A」的な入門書にもなる。

 最初の登壇者は唯一、法律家ではない板垣竜太(朝鮮近現代社会史、植民地主義研究)。彼をトップに配したことが主催者の思想である。板垣は、法務省のHPなどを例に、おそらく一般的には「最近の問題」とみなされているヘイトスピーチを歴史的文脈に位置づけ、植民地期以降ずっと続いてきた人種差別の一形態がヘイトスピーチだと断じる。

 以前から人種差別はあった、ヘイトスピーチとは社会が溜め込んできたレイシズムの噴出……。研究者が言うまでもない「当然すぎる」分析だが、それを強調せざるを得ないほど、この社会は深刻な差別の存在を否認してきた。二〇一四年八月の段階でも、国連の人種差別撤廃委からヘイトスピーチ対策について問われた日本政府は、「処罰立法措置をとるほどの状況に至っていない」などと答弁しているのだ。この立場との整合性もあってか、二〇一五年八月の与野党協議でも、自民党議員は「立法事実がない」「間口が広すぎる」などと異論を述べていた。人種差別撤廃委員会から是正を勧告されている在日への差別は、朝鮮学校の無償化排除や在日無年金、国籍条項問題など、ほとんどが公による差別である。人種差別を法で禁止すれば自らの行為が国内法で差別認定されることを警戒したのだ。

 非当事者には伝わり難いヘイト被害の実態や、ヘイトスピーチ事件としては当時(本書の刊行段階でも)、唯一の民事判決確定事案である京都朝鮮学校襲撃事件判例の司法上の意義など、報告内容は入念な事例研究の結果として選ばれているようだ。米国のヘイトクライム規制が報告されているのもその文脈だろう。規制慎重、反対派の中には、「米国も『表現の自由』重視で規制はしていない」と言う人が時折いる。これらへの反論として金昌浩は、イリノイ州を例に挙げ、米国では州法や連邦法レベルで、ヘイトクライムには量刑が加重される立法がなされていることを紹介する。法整備の結果として、連邦や州によるヘイトクライムの情報収集、警察官への教育やマイノリティを配置した専門部署設置、マイノリティ性のある検事が担当に配置されている、市にも相談窓口があり、弁護士紹介やカウンセリング、裁判への付き添いなどがなされている、等々の例を紹介。外国籍者の排除など人権への感受性を持つ人材が育ちにくい日本の警察、検察の構造的問題も指摘しつつ、日本でも同様の措置を執るべきだと主張する。ヘイトスピーチ問題とは捜査当局問題であるという、現実を踏まえた提言である。

 LAZAKメンバーに憲法学者の木村草太、そして板垣を加えたシンポでは、より明快に論点整理がなされる。その一つが、内容・態様による分類を横軸に、対象による分類を縦軸にした具体的なヘイトスピーチ事例の分類である。六類型に分けられた事例を更に「司法判断と課題」「新たな立法の可能性」のテーマで三種類に図表化した。これは現行法でも出来ることを捜査当局がいかにネグレクトしてきたかの証明でもある。

 「審査基準」や「内容規制」など、これまで「空中戦と思考停止」(李春熙)に止まっていた法規制を巡る論点が噛んで含めるような言葉で整理されていく。その一つは規制でどのような権利を守るのかの「保護法益論」である。「名誉棄損罪」や「脅迫罪」のように、個人の名誉や生活の平穏を守る「個人的法益」なのか、共同体における「善良な風俗」を保護法益とする猥褻規制と同じ「社会的法益」なのか。被害当事者でもある同協会代表の金竜介は、社会的法益を立てることの「分かり易さ」に賛意を示しつつも、「朝鮮人を殺す」と言われても個人で被害届を出せないおかしさとの間で葛藤する。マジョリティがこの煩悶にどれ程の思いを馳せられるかが、今とは違う社会を構築する力になっていくはずだ。

 既にヘイトスピーチを規制している欧州諸国の例が盛り込まれれば、もっと議論が展開できたと思う。流れや時間的制約のあるシンポ本番では無理であっても、書籍化に際しては、規制国における保護法益などについて一項目、設けてもよかったのではないか。

 後半、主に金哲敏による幾つかの提案も興味深い。京都事件の困難から学び、ヘイト事案では匿名で民事訴訟を起こせる仕組みをつくる、該当しやすいが量刑が低すぎる侮辱罪にヘイトクライム規制(量刑加重)的な規定を加える、欧州のように属性への名誉毀損や脅迫を処罰対象にする、日本でも株価に影響を与えるデマを処罰できることを応用して差別意識を高めるデマを処罰する、破壊活動防止法にある扇動処罰規定の理屈を使う……。意見の分かれる大胆かつ過激な提案もあるが、大事なのはヘイト規制に使える枠組みは、海外はもちろん日本でも複数あったということ。しかし、差別されない権利を定めた憲法一四条、個人の尊厳を定めた一三条を持ち、人種差別撤廃条約に加入しているはずのこの国、この社会が差別を黙認してきたことは厳然たる事実だ。板垣報告がここに繋がる。レイシズムを資源とする植民地支配や、人種差別に起因する関東大震災時の朝鮮人虐殺などを検証し、反省していないこの社会では、差別の危険性についての認識が余りにも低い。

 「何かしらの結論を出すためにやったシンポではない」と、金竜介は言う。行間から滲むのは、法律家とはいえ、マジョリティ問題である人種差別の解消に向けた提案をマイノリティ当事者がする。そうしなければ何も動かない差別社会への怒りである。金は言う。「ほしいのは、差別に負けずにがんばってくださいという励ましではない」「『日本人の私はこういうことがやりたい、やってみせる』という言葉です」と。今後の理論的土台を目指した本著は、しかし机上の理論書ではない。共闘の呼びかけである。
(以下略)








●「ふぇみん」 2016年11月5日 より










●「朝鮮新報」 2016年10月5日 より

http://chosonsinbo.com/jp/2016/10/20161004yr/










●「出版ニュース」 2016年10月中旬号より













◆関連書◆

 『日本型ヘイトスピーチとは何か――社会を破壊するレイシズムの登場』
 LAZAK(在日コリアン弁護士協会) 編、板垣竜太、木村草太 ほか著

 『#鶴橋安寧―アンチ・ヘイト・クロニクル』 李信恵 著

 『ロマ 「ジプシー」と呼ばないで』 金子マーティン 著

 『鳳仙花のうた』 李 正子(イ・チョンジャ) 著

 『歌集 沙果、林檎そして』 李 正子(イ・チョンジャ)

 『父とショパン』 崔 善愛(チェ・ソンエ) 著


 『歌集 一族の墓』 金 夏日(キム・ハイル)
  

 『あの壁まで』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著

 『記憶の火葬――在日を生きる―いまは、かつての〈戦前〉の地で』 黄 英治(ファン・ヨンチ) 著

 『秤にかけてはならない―日朝問題を考える座標軸』 徐 京植(ソ・キョンシク) 著

 『尹東柱全詩集 空と風と星と詩』 尹 東柱(ユン・ドンヂュ) 著/尹 一柱 編/伊吹郷 訳

 『羊の怒る時』 江馬 修 著