サツマイモ、国連湯(≒プデチゲ)、インスタントラーメン、トッポッキ、フライドチキン――
1950年の朝鮮戦争下、戦後の混乱の渦中、独裁政権下の経済成長期、民主化闘争の波、1990年代のIMF金融危機……それぞれの困難な時代に韓国の人びとの「底力」になった〝食べもの〟をめぐる5篇のYA。
甘くて辛くて、少し苦くてしょっぱい韓国の〝おいしい〟物語。
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《各話内容紹介》
「ふろしきに包んだサツマイモ」
朝鮮戦争時、ヨンジンと母親はソウルから歩いて南へ避難する途中、空き家でサツマイモを手に入れる。サツマイモは母子の空腹を満たしたうえ、金の指輪や乗車代に代わる。親戚が待つ大邱(テグ)に着いたヨンジンは、駅前で出会ったお腹をすかせて泣いていた女の子とおばあさんに残りのサツマイモをすべて渡すが……。
「ジュンコおばさんと国連湯」
スンジャと姪っ子のナミは、朝鮮戦争で故郷の開城(ケソン)を離れようやくたどり着いた議政府の食堂で初めて「国連湯」を味わう。それまでの「残飯雑炊」には二度と戻れないうまさ。ここで働いたらいいという食堂のおばさんの誘いを、スンジャは断る。東京に留学経験のあるプライドの高い〝順子(スンジャ)〟が始めた仕事とは……。
「もちラーメン」
東大門の縫製工場で働きづめのソンジャの楽しみは、給料日に家族で食べるラーメン。ある日、ソンジャたちが住む清渓川(チョンゲチョン)沿いのバラック村が撤去されることに。国は代わりに郊外に大団地を造り家をくれると聞いて、両親は戸惑いながらも喜ぶ。国の言葉を信じて清渓川を出たソンジャたちを待っていたのは、広大な空き地だった。「国民が腹を空かせているのが不憫でならないと、ラーメンのスープのことまで考える」んだと朴正熙大統領を敬い慕っているお父さんも、ついに……。
「ミンジュんとこのトッポッキ」
「今日もデモをしてるみたいね」。催涙ガスの刺激臭にも慣れっこになって、小学生のソンヒは今日も公園横の〝ミンジュ〟の店でトッポッキを買い食いしながら、趣味に忙しくて留守がちなお母さんの帰りを待つ。ある日警察から大学生のトンホおじちゃんが捕まったと知らせが。今度はもう〝南山(ナムサン)見物〟は免れないだろう。お母さんは半狂乱になり、新聞記者のお父さんは伝手を頼りに釈放のために奔走するが、トンホおじちゃんは留置所から出ようとしない。
「チキン半々 大根多めで!」
失業したお父さんが始めたチキン屋を手伝う高3のヒョンシクは大学受験をあきらめた。チキンの配達に行った豪邸から出てきたのは、同級生のチヌ。数日後、チヌはみごと大学に合格し〝ごほうび〟に思いめぐらせながら帰宅するが、見知らぬ男が家中の家財に赤札を貼りつけている。国家が不渡りを出したため、チヌのお父さんの会社も倒産したのだ。2人の人生はどうなる?
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〈著者ら略歴〉
著者 キム ソヨン(金昭妍)
1972年ソウル生まれ。児童・青少年文学作家。
「今日は昨日の鏡で明日の鳥観図」と信じ、歴史に学びつつ過去現在未来のつながりを模索している。目のまえで展開する気候変動の問題や人工知能がもたらす時代の転換を見守りつつ、多くの危機を克服してきた朝鮮半島の歴史をふりかえる作業をおこなっている。
2005年、中篇「花ぐつ」で月刊『オリニトンサン』童話公募・最優秀賞受賞。07年、出版社チャンビの「すぐれた子どもの本」公募でYA小説『ミョンヘ』(2021年に影書房より邦訳出版)が創作部門大賞を受賞。ソウル文化財団、京畿文化財団支援芸術人に選定された。
最近出版された本に『特異点』、「ヘル朝鮮の遠征隊」シリーズなどと、共著『隔離された子ども』などがある。
訳者 下橋 美和(しもはし みわ)
1971年京都生まれ。現在、京都大学、同志社大学非常勤講師(日本語)。登録日本語教員。
3年間の韓国滞在から帰国した1997年からオリニほんやく会(韓国児童文学の翻訳会、主宰・仲村修)に参加。
大阪外国語大学(現・大阪大学)言語社会研究科国際言語社会専攻、日本コース博士前期課程修了。修士(言語文化学)。
訳著に『あの夏のソウル』(イ ヒョン著、影書房)、共編・訳著に『鬼神のすむ家』、『愛の韓国童話集』、『日本が出てくる韓国童話集』(以上、素人社)ほか。
(本書刊行時点)
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